■ 正義/Justice

目を閉じているのに、キラキラとした光が、まぶしい。
ハッと、目を覚まして身を起こしてベットの枕もとに置いておいたコミュニケーションクリスタルを手でつかむ。
クリスタルの中で、派閥の暗号のルーンがきらめいている。
ヒトツは『議事堂』、もうヒトツは『集合』のルーン・・・。
「・・・マジかよ」
噂では知っていた。だけど今、現実に・・・慌てて装備を整え、ムーンゲートへ向かって馬で駆け出す。
まだ朝の早い時間なのに、ムーンゲート近くの商店街の人たちが、今夜のお祝いのための売り出しの支度をはじめていた。今日はクリスマスイブの祝日。そんな日に戦うためにフェルッカへ向かう自分をどうかなと思いつつ、ムーンゲートをくぐって、マジンシアへでる。海のにおいがする暑い空気のなか、背の高い熱帯の木々の下を駆け抜けて街へぬける。マジンシアは島にあり、明るい黄色の砂岩でできた建物が並ぶ、綺麗な街だ。そして街の南東の海の上に、所属するメイジ評議会の本拠地、議事堂がある。
議事堂へ架かる橋を渡ろうとしたとき、姿は見えないが人の気配を感じた。立ち止まって斧をかまえて、怪しいあたりを探ろうとしたとき、「ちっ」と舌打ちして姿をだして、走り出した・・・敵派閥の偵察だ!追いかけて斧で殴ろうとしたとき、「Merry Kill」という声がして、大きな白い影が頭上をよぎった。「クリスマス♪」という声とともに、白いドラゴンが空から舞い降りて、偵察に噛み付いた。「うわあああー!」悲壮な断末魔をあげて偵察は息絶えた。「おつかれ」と、白い服を着たサキが倒れた偵察に歩み寄り、死体の荷物を確認しながら「Merry Follow Me」とドラゴンをあやつる。「オレが見つけたんだがな」「なんも持ってないわよ、コイツ。死に装備ね。私の爪のアカでもいれとこっかな」死体をドサっと放り、「白いドラゴンのMerryちゃんと、おそろいの白い服で、ホワイトクリスマスっぽく決めてみました。似合う?」とポーズを決めて微笑む。「・・・それより、こないだの話、本当なんだな?」。サキはムっとした顔をして、黙って議事堂へ歩き出す。オレも斧をさげて議事堂へ歩き始める。「議事堂の中に入ってから・・・他にも偵察、いるかもしれないし」とサキがつぶやくように言う。橋を渡って議事堂へ入ると、たくさんの仲間たちがすでに集まりざわめいて、奥に指揮官が座っていた。そしてシギル台には八つの色の八つのシギルがきらめいていた。
「サキさまー!」サキのギルドのギルメン、オハギが駆け寄ってきた。
「派閥のときはギルマスとお呼び」「はぁい。ギルマスー!ギルドハウスから、物資の運び込み、終わりました!」「お疲れ。気合いれていくよー!」「はーい!あ、むっつり男!フリーで防衛参加って渋・・・」サキがオハギの頭をこずいた。「まだ言っちゃだめ!」
「集合!」
そのとき、指揮官が立ち上がり、号令をかけた。ざわめきは一瞬で静まり、みな、すばやくシギル台の前に整列する。
「我らが神へ捧ぐは、血と武勇。八都の支配を我らが正義の証とし、祝うために・・・防衛を開始する!」
「おー!」
声があがり、みな、いっせいに動き出す。議事堂を守るためのバリケードを作りはじめる者、装備の確認をする者、ギルドへの連絡をする者・・・。

これから、長い戦いがはじまる。

オレはざわめく議事堂をでて、屋上へあがった。
マジンシアは熱帯にあるため、冬でも暑くて・・・海からの風が心地よい。
「砲台はやっぱここにする?」「うーん、できたらこっちにも・・・」
屋上は重要な防衛ポイントなので、数人が談義をはじめていた。
横を通り、街が見えるところに座って、斧の手入れをしていると、知り合いのグレリオがやってきたので「よぉ」と声をかける。
「おー。はりきってんなぁ、朝から」とオレの隣に座って話しはじめた。
「一日中、守るのだりぃなー。戦争だと戦いっぱなしだから、やっぱあっちのほうが向いてるのかなぁ・・・オレ」
「でもま、防衛は派閥じゃないとできないからな」
「オレ、防衛は守るより攻めるほうがいいわー。こないだのブリ城攻めはたまらなかったな!!待つのだりぃ・・・ま、都市が手に入れば派閥武器作れるっていうし、軍馬も買えるし、そーいうのはいいんだけど・・・長いよナァ」
「派閥武器?軍馬みたいに色だけか?」
「いや、まずブレス属性だ。あと軍馬だって色だけじゃなくてな・・・」
そんな話をグレリオとしていると、街のほうがざわめきはじめた。
「ミナックス本隊がきたぞー!!」
偵察が議事堂の橋を叫びながら走ってきた。バリケードを作っていた連中が慌てて引き下がり、メイジの呪文の詠唱が始まり、武器をかまえた戦士たちに祝福の呪文がきらめく。
「お?早いじゃねーか。今、都市持ってるのミナックスとシャドーロードだし、必死にもなるわな。さーて、行きますか!!」
「おうよ」

そのときのミナックスは、軽く一戦まじえると、すぐに撤退していった。
こちらの戦力と状況の確認だったらしい。
防衛の情報が漏れていなかったのか、それとも祝日であるためなのか、ミナックスは戦力が集まらず、士気も低く、それでも何度か来たが、ダメージが浅いうちに撤退していった。
トゥルー・ブリタニアンズは偵察が何度か姿を見せたが、本隊は出ずに、少数精鋭のギルドで何度か攻めに来たが、防衛を落とす気はなく、戦闘を楽しみにきたようだった。シャドーロードにいたっては偵察すら来なかった。

しかし。日が暮れて、夜になると、ミナックスが戦力を増しはじめた。
シャドーロードの偵察も姿を見せはじめていた。
深夜、日付が変わったころには、ミナックス本隊とシャドーロード本隊との戦いが終わることなく続いていた。議事堂だけではなく、マジンシア市街での戦いも激しさを増し、三つ巴の戦闘も起きていた。議事堂の橋の上からは、剣の音と呪文の詠唱が絶えず、炎の壁が燃え上がり、壊れかけのバリケードの間には死体が転がっていた。
「本気で落としにきてんナァ・・・おもしれーわ。でさ、包帯余ってない?」
グレリオが体のあちこちに傷をつくって、血をにじませながら、話しかけてきた。
「オレも同じこと聞きたい。秘薬もな」
二人で顔を見合わせて、ニヤリと笑う。
シギル台のある議事堂内に、戦えない状態の仲間たちが集まり、だんだんと数を増していた。もう長時間、議事堂外部への出入りができない状態が続いたため、消耗品はなくなり、力なく倒れている仲間もいた。
「指揮官!!!ここは撤退を!!完全に壊滅しては士気が落ちますぞ!今後のメイジ評議会のことを考えてくだされ!!壊滅し、物資もすべて失っては、次の防衛が、いつになるかわかりませぬぞ!!今、撤退するなら、まだ間に合います!!!」
シギル台の奥で、指揮官にむかって、一人の男が騒いでいた。
「古参のジジィ、うっせーな・・・」とグレリオがつぶやいたとき、ドーン、という音とともに、議事堂が揺れた。
「どこだ・・・?」
「海・・・!?」
「船だー!!」
「トゥルー・ブリタニアンズだ!!!」
屋上からざわめきが聞こえる。
「攻撃呪文が届かないぞ!!爆弾も矢もムリだ!!!」
屋上から議事堂へ一人、駆け込んできて、叫んだ。
「トゥルー・ブリタニアンズが船から地震呪文を詠唱しています!こちらからの攻撃が届かないポイントにいます!!!」
状況の報告中も、ドーンドーンという地震の音が続いている。
「しっきっかぁっんっっ!!!!聞きましたかっ!?これでもまだ、やるんですかぁっ!!!」
古参の男の悲鳴がこだました。指揮官は立ち上がった。「やっと・・・」と古参の男が床に座り込んだ。
「耐えろ」
指揮官は一言、はっきりと言った。
「しきかぁぁぁっん!?」古参の男は目をむいて泡をふいて倒れそうだ。
「merry、落ち着いて!こっちへ・・・いい子だね」
サキがドラゴンをなだめながら、移動してきた。
「サキ。大丈夫か?」と声をかける。
「ただでさえ気がたっているのに、揺れたもんだから・・・」
「こんなとこで隠れてないで、ソイツ、橋の上につっこませろよ?」グレリオが言う。
「私だって戦いたいよ!でも指揮官がね、シギルを守る最後の切り札にしろって・・・」サキが涙目でグレリオにつっかかる。
「サキさまの気持ちもわからないで、何をいうのさー!」オハギが横でわめきだす。
オレはサキの肩を叩いて、「包帯あったらくれ」と手をだす。
「ああ、あるわよ・・・はい」
サキが、まっ白な包帯をくれた。
「オハギ、行くぞ」
「私、さっき、死んで、蘇生してもらって、まだ回復しきっていなくて、行っても力だせない・・・!!」
青い顔をして、それでも剣を持ったオハギが肩で息をしながら叫ぶ。
「行くぞ」
オハギの手首をつかんでひっぱる。
「でも・・・」
「剣持って、睨んでろ。戦士なんだろ?」
オハギは黙ってコクリと、うなずいて、剣を握りなおす。
トゥルー・ブリタニアンズの地震魔法攻撃のため、混乱する議事堂の入り口を駆け抜け、橋をすこしのぼったところで、離れた対岸に見慣れた赤い制服の集団が見えた。議事堂に向かって、敵派閥を蹴散らしながら走ってくる。
「あ。SoF・・・!!」
オハギが叫ぶ。メイジ評議会に所属する古参で最大のギルドだ。
「待たせやがって。全員攻撃!!挟み撃ちにする!一気にいくぞ!!!」
指揮官が橋に出てきて叫ぶ。一斉に雄叫びがあがる。

「・・・屍の山だな」
思わずつぶやく。橋の上は、味方と敵派閥の死体が大量に転がり、橋の下の海は血で赤く染まっていた。ほとんど相打ちに近いような戦闘だったが、敵を撤退させることができた。トゥルー・ブリタニアンズの船は秘薬がなくなったらしく、撤退していった。
「防衛を終えるまで勝ったといえない。気を抜くな!」
指揮官が怒鳴っている。物資の調達をはじめる者や、「バリがなくなったところは、とにかく作るわよ!!あと海にも船でバリを作るわよ!!」と、バリケードを作りはじめる者・・・。
長い戦いでのダメージの回復と、新たな戦いへの備えがはじまっていた。
オレも装備を整えなおして、議事堂内へ入ると・・・ふんわりとした光がともっている。
そばへいくと、シギル台の下にテーブルが置かれ、燭台に火がともり、ケーキや豚の丸焼きを照らしている。なんだこれ、と思っていると、チリンチリンという小さな鈴の音がして、道化帽子を被った男が姿をあらわし、「ふぇふぇふぇ。ケチなシーフがクリスマスを盗んでまいりました」とお辞儀をした。
他の連中も集まってきて、「え?なになに?わーい」と、ケーキをほおばりながら、はしゃいでいたり、「ツリーバリケードも作る?」と話しながら、つまみぐいをはじめた。オレもクッキーを一枚、かじって・・・やわらかな光に、シギルがきらめいて、どんなツリーのオーナメントよりも綺麗かもしれないな、と思った。
そのとき「ミナックス本隊、きたぞー!!!」と偵察の叫び声が聞こえた。
つかの間の安息は幕を閉じ、戦場へ向かう。ただ、この場所を守るために。

その後も何度か戦闘は起きたが、夜明けが近くにつれ襲撃は減り、静かな夜明けを迎えた。
そして。
「シギルが腐ったぞー!!!」という叫び声に、みな盛り上がる。
シギルは街を統治できる魔法の珠で、拠点に24時間以上設置すると、その派閥のモノとなり、また街へ戻すと、街を統治する力を放ち、街が自派閥のモノとなる。
腐るとは、派閥のモノになったことである。
これから・・・シギルを街にあるシギル台へ戻す。それですべての街を征服できる。
「各街へ偵察!」と指揮官が叫ぶ。
しばらくすると各地から帰ってきた偵察から次々と「異常なし!」と報告が入る。
しかし、傷を受けて帰ってきた偵察が「ブリテイン、派閥ガード多数!!」と叫んだ。
「・・・やはりな。静かすぎた。ブリテインを最後にし、他の都市から設置を開始する!!」と指揮官が指示した。「ほいほい。わしの出番だがな」とシーフがシギルをシギル台からそっとおろし、他のメンバーへと渡す。渡された者は、それぞれの街へと走りだす。
オレもどこかの街へ同行しようとついていき、ムーンゲートに到着すると、
「大変だ!奪われた!!」とムーンゲートから一人、駆け出してきた。先に出発していた連中だ。「シャドーロードにやられた!!今、追跡しているが、やつらの拠点へ向かっている!!援護を頼む!!集合はユーのムーンゲート!!」と叫んだ。
おもしろそうなので、シギル奪還に参加することにして、ユーのムーンゲートへ抜けた。
次々と仲間が集まり、「わしの出番だがな」とシーフがやってきたところで、出発した。シャドーロードの拠点は、地下墓地にある。いつ来ても暗くて寒い。
墓地の入り口から地下へ入り、通路を駆け抜けて、階段をかけあがると、シギル台がある。
シギルはシギル台に置かれ、横でシャドーロードの女が一人、酒を飲んでいたが、こちらを向いて、「・・・早いな。道化も来たか」とつぶやいた。
「あいよ。いただきにあがりました」とシーフが前にでる。
「こんな日に防衛を考えて、やった指揮官は、あのバカか?」
「ふぇふぇふぇ・・・さようで。変わらず気になりますか?」
「フン。私の他は、みな、死んだよ。罠もない。持ってきな」
「じゃ、遠慮なくいただいて。いらしたことは伝えておきますよ」
シーフはシギルを台からおろした。
「今回は負けたが、奪い返すと言っときな」
女は酒をもう一口飲んで、睨みながら言った。
「ふぇふぇふぇ・・・じゃ、おまたせしましたね。みなさま、まいりましょ」
シーフが走り出したので、みなついていく。
「あれ、ほっておいていいのか?」「昔からの因縁らしいぞ」「ふーん」などと小声で噂する連中がいた。

そのシギルを街へ置いてからブリテインへ集まり、派閥ガードとの戦いは勢いで乗り切って、シギルを設置。
これで、全ての街の統治に成功したー・・・!!
興奮のざわめきの中、議事堂へ戻って集合して記念撮影をし、各ギルドで街の保安官と財務官の奪い合いと駆け引きがはじまるなか、オレは議事堂の屋根に寝転んで、空を眺めてた。

「コラ。防衛が終わったからって、こんなところで寝ちゃダメでしょ」
サキが上から見下ろしていた。気づかないうちに眠っていたらしい。
「ん・・・疲れた。ミニスカートでジジイどもから、街はとれたのか?」
起き上がると、サキにこずかれた。
「ミニスカのおかげじゃないけど、とれたわよ。あと、オハギから」
サキから青い斧を渡された。
「間違えてつくっちゃったから、あげるって」
いつもオレが持っている斧と同じタイプのやつだ。
「・・・派閥武器?」
「そうよ」
「もったいないから、使ってやる」
サキはニコニコと微笑んだ。
「あと、ウチのギルドで今夜、クリスマスパーティやるからおいでよ」
「そんな元気ねぇ。家に帰って寝る・・・」
「ごはんだけでも食べにおいでよ。じゃぁねー」とサキは走っていった。
後姿を見送って、もう一度空を眺めて、斧を握りなおして。

防衛成功、全都市制覇。
でもまた戦いの日々が、はじまる。
だけど今は、強くなれたことを祝ってーMerry' Christmas!!