■ backpack art - by FLOT
■ tale - by mya-a.
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「アップルパイも焼けたぞい」 「わーい」 おねえさんは、さるっこの歓声をうけながら、アップルパイを載せたお盆を持って、台所から庭のテーブルへと歩いてきました。 クッキーとマフィンをほおばっていたさるっこは、もぐもぐしながら、にっこりしました。 おねえさんは、アップルパイを置きながら、「作りすぎたかの・・・」とボヤきました。 「・・・んぐんぐ。んーん、だいぢょぶ!ぜんぶ、たべう」 さるっこは、もぐもぐと食べてます。 |
「アホ!くまっこのぶんも、あるんじゃよ。それにしても、遅いの・・・」 おねえさんは、庭の奥にある工房のほうを見ました。 「だって、修理するの、たくさんあったし!大変なんだよ」 「ぼんやりしてると、すぐにたまってのう・・・まぁ、くまっこに頼めるようになってからは、助かっとるわ」 「うんうん」 さるっこは、笑顔でうなずきました。 と、そのとき、「・・・終わったよ〜」と、くまっこがおでこの汗をふきながら、やってきました。 「おお。お疲れ様。ささ、いろいろ、つくっといたからの!」 「わぁ。ありがと〜」 くまっこは、さるっこの隣に座って、さっそく、マフィンをかじりました。 「大変だったでしょ!いっぱいあったから〜」 さるっこが、ミルクをマグカップに注ぎながら話し掛けました。 「いっぱいなのよりも・・・痛みがひどいほうがつらかったな。粉で磨いといたよ」 「そいつはすまんかったの〜。あとは、強化もしてくれると・・・」 くまっこは、おねえさんの言葉に、頭を横にブンブンとふりました。 「そ、それは、まだ、ムリ!ムリです!!」 「どうせ壊れても、おねえさんのだし!やってみたら?」 さるっこは、ニヤリとしました。 「あほう!」おねえさんは、そんなさるっこの頭を、スパーンと叩きました。 |
「壊れてもいいなんて思っていたら、うまくいくもんもうまくいかんわ!」 「あいたたた」と、頭を抱えるさるっこの隣で、くまっこは、 「そ、それもそうだけど・・・そうそう、おねえさんの家に、鍛治の工房なんてあったのね。今まで気づかなかったよ」と、必死に話をそらしました。 おねえさんは遠い目になりました。 「うむ。実はな、若いころに、ちーっと、がんばってみようかと思ってな。鍛治の支度だけしたんだが・・・どうも、むかなくての。気づいたら倉庫になっとたわ。ちょーど、防具や武器をしまっとったら、思い出してな。くまっこの家に持ってくより、来てもらったほうが早いしの。片付けてみたんだわ。使い勝手はどうじゃ?」 「うん。使い勝手、よかったよ。なんとなく、台所と同じかんじで。なんか懐かしい気もしたり・・・」くまっこは、マグカップを両手で抱えて、遠い目をしました。 「あ!くまっこが料理を教わったのって、おねえさんの家だもんねぇ」 さるっこが、言いました。 「そうじゃのぉ。はじめて、くまっこに会ったのも、ここだったのぉ・・・」 おねえさんは、しみじみと、つぶやきました。 と、そのとき。 「大変だ!大変だ!!」と叫びながら、とりさんが、バタバタと飛んできました。 「・・・なんじゃ、そうぞうしい」おねえさんが、うっとおしそうにつぶやきました。 とりさんは、ぜーぜーしながら、「や、やさぐれパンダが、やさぐれた!」とさらに、叫びました。 「はぁ?」 くまっこと、さるっこが、びっくりしつつ、返事をしました。 「のんきに、食ってる場合じゃねぇだろ!」 とりさんは、机をバーンと叩きました。 「食ってる場合じゃねぇって、ウチには関係ないしの?」 おねえさんが、つっこみました。 「あるんだよ!」とりさんは、机を、また、バーンと叩きました。 そして、北のほうをさして、「裏の家だし!!」と叫びました。 「ハァ?なにを、たわけたことをいっとるんじゃ?」 「なにをー!ババァ!」 「ババァとはなんじゃ!」 ・・・おねえさんと、とりさんは、ケンカをはじめてしまいました。 くまっこと、さるっこは、顔を見合わせてから、こっそりと、テーブルをはなれました。 もちろん、裏の家に行くためです。 二匹は、てけてけと歩いて、裏の家に向かいました。 |
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くまっこと、さるっこが中に入ると、やさぐれパンダがボロボロと涙をこぼしていました。 「・・・やさぐれてるっていうより、泣いてるね」 さるっこは、くまっこに、そっとつぶやきました。 「ん・・・どうしたのかな・・・」 くまっこも、つぶやきました。 「ん?アンタたち、なによ?」 やさぐれパンダが、しゃべりました! |
「しゃ、しゃ、しゃべったよ!?」 さるっこと、くまっこは、びっくりして、手をとりあって、あとずさりしました。 「フン。なにさ、ブロークンハーツなパンダにむかって、その態度。失礼しちゃうわ」 「ご、ごめんなさい・・・今までずっと、お話しないと思ってたし・・・」 くまっこは、一歩前にでて、頭をペコリとさげました。さるっこも、後ろにくっついて、頭をさげました。 「ま、最近のパンダはしゃべるのがトレンディなのよ。このぐらいで驚いていたら、時代についていけないわよ・・・って、もう時代なんて、アタイには・・・」やさぐれパンダは、また泣きはじめました。 「・・・時代が、どしたの?」 さるっこが、聞きました。 「ひどい時代よ。アンタたちだって、わかるでしょ?」 くまっこと、さるっこは、顔を見合わせました。 「・・・わかんない」 さるっこは返事をしました。 「ったく!にぶいったら!新しい目のこと、知らないのっ!?」 「知らなーい」 くまっこと、さるっこは、すぐに返事をしました。 「・・・あのね、この世界を見るには、目が必要なのよ。それに新しい目ができてね、その目で見ると、同じ世界でも、違ったふうに見えるのよ」 「わかった!」 さるっこは、すぐに返事をしました。 「新しい目で見たら、ボク、カッコよく見えるんだね!」 「フン」 目をキラキラさせてるさるっこを、やさぐれパンダは、鼻先で笑いました。 「なにいってんのさ。新しい目で見たら、アタイはとろけたガラクタで、アンタたちなんて、バラバラのぐちゃぐちゃよ」 「えええええ?!」 くまっこと、さるっこは、叫びました。 「・・・バ、バラバラ・・・?」 くまっこはつぶやきました。 「そ。手も足も顔も、みーんな、バラバラのこっぱみじんよ」 やさぐれパンダはさらに、言いました。 「こ、こっぱみじん・・・?」 くまっこは、手を見て、さるっこを見ました。 「くまっこ、バラバラじゃないよ・・・?」 さるっこも、途方にくれた顔をしてます。 「そ・れ・は!古い目で見てるからよ。新しい目で見れば、今だって、アタイはガラクタで、アンタたちは、バラバラ」 「そ、そうなの・・・?」 くまっこは、なんだか寒くなってきました。 「・・・な、なんか、痛いよ!!痛いよ!!バラバラなんて、痛いよ!!嫌だよ!うわーん!!」 くまっこは、泣き出しました。 |
「・・・え、だって、バラバラじゃ・・・でも新しいのだと・・・え、どうしたら、くまっこ・・・えっとえっと・・・うわーん」 さるっこも、どうしていいかわからずに、泣き出しました。 「やっとわかったの。アタイはアタイでいたいだけなのに、どーして、アタイでいられないのかしらね・・・」 やさぐれパンダは、また、ボロボロと涙を流しはじめました。 そのとき、「何をビービー泣いとるか!」と、おねえさんが、怒鳴りながら、入ってきました。 「ほらな、やさぐれパンダが、やさぐれてるだろ?」 とりさんも一緒です。 「やさぐれぇ?ボロボロと泣きおって。悪いモンでも食って、腹をこわしただけじゃろーて」 「な!・・・デリカシーがないわね!」 やさぐれパンダは、おねえさんをにらみつけました。 「フン。図星じゃろ。それより、くまっこ、どしたんじゃ?」 「おねえさん・・・あのね、新しい目で見るとね・・・えぐえぐ・・・バラバラって、バラバラって・・・」 くまっこは、泣きじゃくりながら、話しました。 「くまっこは、バラバラに見えるのかぃ?」 くまっこは、「んーん」と首を振りました。 「自分の目で見えないモンを、気にしてどうする!」 「気にするわよ!」 やさぐれパンダが叫びました。 「だって、ヒトから見えないのよ!自分が見えたって、ヒトから見えなかったら、アタイはなにさ?」 「フン。自分がしっかりしとりゃー、なんとかなるもんじゃよ。サル!」 おねえさんは、さるっこの頭をはたきました。 「いて!」 「ピーピー泣いとらんで、ウチから酒持ってこい!樽ごとな」 さるっこは、涙をぬぐいながら、おねえさんの家に向かいました。 「酒で、どーするんだ?」 とりさんがおねえさんに聞きました。 「アルコールで腹の悪いモンを消毒してやらんとな」 「おなか、悪くないわよ!」 やさぐれパンダが否定しました。 「腹が悪いと、どーにもならんことを、がたがたと、どーしよもなく考えたくなるんじゃ。そんなときは酒じゃ!」 「ババァは、とにかくのめればいいんだろーが、このアル中!」 「なにをいっとる!どーにもならんことで、つまらん思いをするより、酒ですっきりするにかぎるわ、のぉ、くまっこ?」 「・・・そぉなの?」 くまっこが、途方にくれた顔をしてると、「持ってきたー!」とさるっこが、駆けてきました。そして、テーブルをだして、手際よく、お酒とおつまみをならべました。 「ひ、ヒトんチでなに、はじめてるのよ!?」 やさぐれパンダが怒鳴ると、 「こまかいこといわんで、ほれ、ぐぐっと・・・」 おねえさんは、やさぐれパンダにワインの瓶をさしだしました。 「フン・・・あら。この香り・・・ユー産ね?なかなかやるじゃないの。仕方ないわね」やさぐれパンダはぐーっと、ワインをのみほしました。 「ほほほ。まま、ぐーっと。ほれ」 おねえさんはのみながら、やさぐれパンダにワインを勧めてます。 さるっこも、ワインをついで、ちびちびとのみはじめました。 「まったく、さるまで、のむよーになりやがって・・・」 とりさんがぼやきました。 「これなら甘いもん」と、さるっこは返事をしました。 するとくまっこが、「じゃ、私も」とワインをそそいで、くーっと、のみほしました。 「く、くまっこ、そんな一気にのんだら・・・」 とりさんは慌てましたが、すでに手遅れで、くまっこは、ぱたりと倒れました。 「くまっこ!?」 「くまっこ!?」 さるっこと、とりさんの声が遠くに聞きながら、くまっこの意識は遠のきました。 ・・・頭の痛みで、くまっこは、目を覚ましました。 「・・・だいじょうぶか?」 とりさんが、声をかけてくれました。 「・・・ん」返事をしながら、起き上がり、「ほら、水飲んで」と、とりさんがくれた水を飲みおえて、あたりを見渡すと、やさぐれパンダも、さるっこも、おねえさんもいません。 「・・・みんなは?」 くまっこは、とりさんに聞きました。 「裏の滝に打たれにいった」 「・・・はぁ」 「さっきの水な、さるっこが、くまっこに汲んできてくれたんだぞ。行くか?」 「うん」 とりさんと、くまっこは、裏の滝へと歩き出しました。 |
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「・・・ふあ」 くまっこは、滝を見て、ため息をつきました。 やさぐれパンダは滝に打たれていて、さるっこは釣り竿をたらしていました。おねえさんは水に足を浸して、はしゃぎながら、「くまっこー!」と手を振ってくれました。 くまっこは、手を振りながら、滝を眺められるベンチに、とりさんと一緒に腰掛けました。 |
「・・・世界は、広いね」 くまっこは、つぶやきました。 「・・・バラバラだなんて、嘘、よね・・・?」 「嘘じゃない」 とりさんは、きっぱりと言いました。 「・・・どうして、バラバラにならなきゃ、いけないの?」 くまっこは、また、泣き出しました。 「どうして?悪いことしてないのに、ねぇ、どうして・・・?」 とりさんは、くまっこの頭を、黙ってなでました。 「・・・いつか、みんな、新しい目になっちゃって、バラバラにしか見えなくなったら・・・」 「なぁ、くまっこ。自分で自分をいじめるんじゃないよ」 「いじめてないよ!だって、バラバラなんだよ!今だって!」 「だからって、つらいことを、どんどんつらく考えるのはやめなさい」 「考えじゃないよ!だって、現実だもん・・・」 「今の現実でも、いつかは、わからないだろ?」 「わからないけど、だって、今だって・・・」 「ほら、つらく考えてるだろうが」 くまっこは、「だってだって」と言いながら、ボロボロと泣きました。 とりさんは、くまっこの、頭をなでながら、「すっきりするまで、泣きなさい・・・」と、抱き寄せました。 そのとき、火の玉がとりさんに飛んできて、ぶつかりました! 「なにしとるかー!」おねえさんが、血相を変えて駆けてきました。 「あちぃ!」と、とりさんは、バタバタと滝に向かって逃げていきました。 「ちーっと目を離したすきになにしとる!待たんか!」 おねえさんは、とりさんを追いかけて、行ってしまいました。 |
一人で泣きじゃくる、くまっこのところに、さるっこがやってきて、隣に座りました。 「くまっこ、あのね」 「・・・・・・ん」 「あのね、とりさんみたいに、むずかしいこと、言えないけど・・・つらくてもね、くまっこはね、笑ったほうが、かわいいから、笑ったらいいよ」 さるっこは、まじめな顔で言いました。 くまっこは、目をパチパチさせたから、両手でゴシゴシとしてから、 「・・・ん・・・でも・・・笑える、かな?」と、うつむいて、つぶやきました。 「大丈夫だよ!リンゴとってきたし!」 「リンゴ?」 「うん。そこの木になってたの。はい」 さるっこは、くまっこに、リンゴを手渡しました。くまっこは両手で受け取って「ありがとう」と言いました。 「おいしいから!食べれば、笑えるから!絶対!!」と、一生懸命話す、さるっこを見て、くまっこは、くすくすと笑いました。 「ね!笑えた!!大丈夫でしょ?」 「うん」 それから、くまっこは、さるっこと一緒に、リンゴを食べました。 |